心身医学系文献サマリー(1)

主として専門誌に初出掲載された心身医学・精神医学系のレボート・論文を、抜粋・要約したものです。詳しくは原著をお読み下さい。
50年代〜80年代のものが中心になります。いまを知る為にも、過去の仕事を知ることが大切です。

 

日本の臨床 1959年

神経症の症例とその治療法 〜心臓神経症を中心として〜

九州大学医学部桝屋内科 池見酉次郎・他     

 

(2) 見立てについて

 

 

 

この報告を読むと、「心臓神経症」と呼ばれていた神経症が、現在パニック症・パニック障碍と呼ばれているものと重なり合う部分が随分多いことに気づきます。つまり、心臓神経症をはじめとする幾つかの神経症を含めて、パニック障碍という新しい診断名称・疾患単位に衣替えをしていった経緯を、実際にうかがうことが出来ます。
パニック障害では、薬によく反応して改善していく患者さんと、薬ではあまり良くならない患者さんがいることが云われています。もしかすると、薬が効きずらいケースというのは、さしずめ本来の「神経症」としての患者さんなのかも知れません。
それにしても、この頃の内科を受診する患者さんには、心臓神経症と胃腸神経症が大変多かったことが分かります。いまで云うと「うつ」のような状況でしょうか。
また、過換気症候群を命名し、最初に発表したのが池見先生だったことが分かります。ご存じのように、池見氏は心療内科の生みの親のような存在です。

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本 文

 患者自身が心電図を希望するか、医者によって心電図の必要ありとみなされた患者74名の中、16名(21.7%)が、いわゆる心臓神経症のカテゴリーに入るものであることがわかった。心臓神経症は近頃流行の神経症の中でも、特に花形的存在であって、報告や解説は相当数にのぼるようである。
 心臓神経症は胃腸神経症と共に、内科方面でみられる神経症の双璧であることに、吾々も異論はない。
 アメリカのアレキサンダーが強調しているように、神経症の身体症状の発現にあたっては、自律神経系統が主役を演ずる。したがって自律神経の支配を特によく受けている心臓血管系と消化器系に、神経症による身体症状が発現しやすいことは当然のことと考えられる。

 症例1 34歳男子。工場技術者。
 6〜7年前から年に1・2回、入浴時や激しく動いたとき、心的緊張などの時に発作的に頻脈をきたしたことがあった。昨年7月、機械を修理する為、高い台の上に飛び乗った途端に心悸亢進が起こった。当時、患者は心身共に非常に疲労していた。これまでならすぐ止まる動悸が、なかなか止まらないばかりでなく、そのうち息苦しくなり、手足がしびれ、頭がぽんやりしてきた
(意識が遠のいてきたの意か)。患者は死への不安に襲われ、工場内の診療所へ運んでもらった。それ以来、職場に出ると動悸や手足のしびれなどが起こるようになり、一人でいると不安であり、医者に手を握ってもらうと症状が軽快した。次第に一般化した浮動性の不安が現れ、病像としては不安反応を思わせる状態になった。

 一般化された浮動性の不安(なにもかもこわくなる)があり、身体症状も心臓血管系に限らず、全身的な症状(頭のしびれ、頭痛、呼吸困難、手足のしびれ、悪心、嘔吐、下痢など)をあらわしている。いわゆる心臓神経症では、このような浮動性の不安がなく、身体症状も心臓血管系に限って現れると考えられているようだが、そのようなケースははなはだ少なく、多くの実際の例では、ここに述べたような、さまざまな神経症的な反応を呈するものである。
 たとえば或る若い女性は「恐怖の報酬」というスリリングなフランス映画をみた夜から、心悸亢進の発作を起こし、それ以来、心悸亢進と死の不安とに脅かされていた。

 一度激しい心臓血管系の発作を呈し、強い死の不安を体験すると、この不安が慢性化されて、たえず心悸亢進、失神感、手足のしびれなどの症状を誘発し、このような身体反応がまた逆に死への不安感、心臓血管系の疾患に対する不安を深める。ここに心理・生理的な悪循環が形成されて症状は固定化していく。

 症例3 46歳未亡人。
 2年前、夕刻時に炊事の支度をしている時、悪心があり、気分が悪くなったので横になった。同時に息苦しくなり、吸気が困難となり、両手足・顔面がしびれてこわばった。しかし意識混濁はなかった。昨年、夜中に目覚めて、戸締まりやアイロンのスイッチが気になり見に起きた。その後眠ろうとしたがなかなか寝付かれず、そのうちに気分が悪くなって悪心があり、前年と同じ発作がおきた。
 夫は結婚後3年で戦死した。夫の死後洋裁店を経営して、患者は一人の養女を抱えて幾多の生活上の苦労とたたかってきた。父と幼子を抱えて女一人で自活することはなかなか容易でなく、患者はこのような精神的苦労の救いを、キリスト教に求め、自ら伝道に出ることもあった。患者の信仰に対しても、周囲から、とやかくの批判もあり、彼女の信仰生活も多難であった。

 患者の精神的な苦労が発作の誘因をなしていると思われる症例である。本症例のように呼吸困難(吸気が困難で息がよく吸い込めないという形であらわれる)、手足のテタニー、全身のけいれん、顔や手足のしびれを主症状とする症候群については、吾々は呼吸性神経症ないしは過換気症候群として、すでに本邦で最初の報告をおこなっている。しかし、過換気症候群には心臓血管系の症状も普通に伴い、広い意味の心臓神経症に含まれるものと考えてよい。

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